「二年前のことさ…俺もあんまり知らなくて。俺もその頃は高校入ったばっかでツレと遊んでばっかだったから、雅がそんなことになってるって知らなくてさ」


ごめん。


明良兄は小さく謝った。


あたしは天井を見上げたまま、小さくかぶりを振った。


「中学時代ってさ、やっぱ友達も居るしどうしてもそれぞれの世界ができるよね。


知らなくて当然だよ。明良兄が謝ることない」


「あたし、お母さんたちに聞いてみたの。そしたら事件のことは覚えてたけど、雅の入院とか警察の事情聴取とかでそのときはいっぱいいっぱいだったみたいで、結局犯人は分からずじまい。


雅のお父さんとお母さんが、捕まった犯人に会いたいって食い下がったらしいけど、実際雅は怪我をしなかったわけだし、


犯人の情報は…犯人が当時未成年で、少年法?とか言うもので公にはされなかったみたい」


「憲法31条だよ。非行少年の再非行の抑止や更生を目的とした法律」


あたしはそっけなく言った。


犯人が未成年者ってことを知った時点で―――厄介なことになるとは思ってたけど。


って言うことは、誰も犯人を知らないということになる。


「更生って何だよ!そいつは少年法に胡坐かいて、またも犯罪を犯そうとしてるんだぜ!」


明良兄が声を荒げると、勢いよく起き上がった。


「明良、落ち着いてよ」乃亜が宥めるように明良兄の腕を引っ張り、ベッドに戻した。


明良兄が大人しくベッドに横たわり、あたしは明良兄の顔を覗きこんだ。


「ね、二年前の事件で怪我した男子生徒が居るって言ってたよね。その人なら犯人の情報を知ってるんじゃないかな」


明良兄は目をぱちぱちさせ、その向こう側から乃亜がのっそりと起き上がり、「それだよ!」と言って目を輝かせた。


「傷害の直接的な被害者だもんね。裁判を起こしたら―――」


「そいつは原告になる。つまり被告人である加害者の正体を―――そいつは知ってるはず」




あたしは乃亜の言葉の続きを引き継いだ。