―――でも外して良かった。
こんなのまともに当たってたら、相当な怪我を負わせていたに違いない。
「明良兄!!」
あたしはお皿を手にして、呆然と振りかざしたボトルの先を見ていた明良兄を見て口を開いた。
「…お前、俺を殺す気かよ…」
まだびっくりしているのか、明良兄が心臓の辺りを宥めるように押さえている。
「えっと…違うの。ストーカーの野郎が入り込んだのかと思って。ごめん…」
良く考えたら明良兄が家に来ることなんてしょっちゅうだし、最近は疎遠だったけど以前は我が物顔で歩いている姿なんて当たり前の光景だった。
「…ごめん、怪我ない?」
「…ないけど、お前大丈夫か?」
明良兄の手があたしのボトルを掴んでいた手に重なった。
ボトルを振りかざしたときの、ショックと興奮が余韻としてまだ残っていたのか、あたしの手は僅かに震えていた。
だけど明良兄の懐かしい体温と感触に、心が落ち着いていく。
「乃亜から聞いた。お前がストーカーに遭ってるって。それで心配になって…」
明良兄がぶっきらぼうに言って、それでも心配そうにあたしの髪をゆっくりと撫でる。
変わりないその仕草に、あたしはちょっと頬を緩めた。
「心配してくれてありがと。わざわざ来てくれたんだ?乃亜は?一緒じゃないの?」
「着替えてから来るってサ。勝手口から入るとか言ってたぜ?」
トントン…
「雅~…明良~…あたしだよ…」
声を潜めてノックする音がして、明良兄が開けておいたんだろうな。鍵がかかっていないドアノブがゆっくり開いた。
乃亜がおずおずと顔を出し、
「お酒くさっ!何~??」と思い切り顔をしかめたのを見て、あたしは思わず明良兄と顔を見合わせた。



