―――誰か居る……
あたしは物音を立てないようそろりとソファから起き上がると、サイドボードの中からお父さんのウィスキーの瓶を持ち出した。
もっと威力のある凶器が欲しかったけれど、物音がするキッチンの方には近づけない。
短い間で結局考え出したのが、このウィスキーの瓶だったわけ。
お父さんが大事にしている“コレクション”の一つで、重さもあるし振り回したら少しは相手にダメージを与えることができるだろう。
あたしは腰を低めて、物音がするキッチンへ忍び足で向かった。
キッチンの白い床に黒い影が落ちている。それだけで結構な身長があることが分かった。
水月よりももっと上…もしかしたら保健医ぐらいあるかもしれない。
ドキン、ドキンと心臓を鳴らして恐る恐る男の足元を見る。
スリッパは履かずに靴下…それから色の濃いジーンズの裾が見えた。
男の足が出し抜けにこっちを向いて、あたしはウィスキーの瓶を握る手に力を入れた。
男があたしに気付き、あたしはウィスキーのボトルを振り上げた。
「―――雅……?」
え……?この声―――
ガシャンッ!!
バシャンッ!
「ぅわっ!!危ねぇ!!」
ボトルがテーブルに当たって割れる音、それから中の液体が派手に零れる音―――そして驚きの声を聞いて、あたしは的を外したことに気付いた。



