根岸って言うのは、たぶんあの気の弱そうな黒縁メガネの男子のことだよね。


根岸は昇降口の奥で小さくなり、周りを同じA組の委員たちが囲んでいる。


「…で…でも…やっぱりD組だって言い分はあるし…」


「あ?何言ってんだよ、お前は!あんなクソみたいな連中に負けてもいいってのかよ!」


と委員の一人の男子。こっちも見た目はいかにも真面目そうな姿だ。


だけど根岸と呼ばれた男子の胸ぐらを掴み、今にも殴りだしそうな雰囲気は優雅さに欠ける。


「そうよ!!あたしは絶対に負けられない!あんな頭悪い奴らに負けたら、恥ずかしくて顔向けできない!」


もう一人の女子が叫ぶように言って、あたしは足を進めた。


「随分な言われようだね」


ポケットに手を突っ込んだまま、あたしは連中を見据えた。


根岸の胸ぐらを掴んでいた男子が慌てて手を離す。


根岸は両手で鞄を抱えて、怯えたようにあたしを見てきた。


「何?何か文句あるわけ?」とあの気の強い女があたしを睨む。


「大有りだ!ヒトのクラスのアイデアパクっといて良くそんなこと言えるな!」


と梶は早くも戦闘態勢。


久米は腕を組んで静かに傍観していたけれど、その表情は珍しく不機嫌そうだった。


「パクった!?言いがかりはよしてよ。そっちこそあたしたちのアイデア盗んだんじゃない」


はっ!と言って吐き捨てるように気の強い女が言う。


「何だと!」


梶が今にも掴みかかりそうな勢いだったから、あたしはポケットから手を出して梶の前に腕をかざした。


「やめな、梶。こいつらの言う通り証拠はないんだよ」