「突然のお邪魔申し訳ございません」


クリニックの出入り口まで見送りにきてくれたお父さんに僕はもう一度だけ礼を述べた。


「いえいえ。学校での冬夜の話が聞けて良かった」


お父さんは爽やかな笑顔を浮かべていたが、近くを来月に行う県会議員選挙の宣伝カーが通ると、露骨に顔をしかめた。


『右門 博(ミギカド ヒロシ)、右門をどうぞよろしくおねがいします』


明るい声でうぐいす嬢が選挙カーから手を振っている。


「右門議員って確か前回も県会議員でしたよね。まだ若いのに相当ヤリ手だとか」


「さぁ。相当あくどいって噂ですよ。“これ”をばら撒いてるんじゃないですか?」


とお父さんは親指と人差し指で丸を作った。


僕は苦笑い。


「右門議員もその息子さんも、うちの卒業生らしいですよ。僕はそのときまだ学生だったから知りませんけど、未だにOBとして寄付金を多く出してるとか」


それが選挙法とかに引っかかるのかどうかは知らないが、そのお陰できれいな体育館や球戯場などの施設、その他もろもろの備品にはことかかない。


僕は生まれてからずっと地元と言うわけでもないし、議員のことを良く知らないが、彼の祖父の代から議員で代々受け継いでいるとか。


ついでに言うと、ずっと地元だったまこもあまり好いてはいない。


何でも議員の息子と学年は違ったが通っていた中学が一緒だったとか。


つまり、その息子はまこの後輩だと言う訳だ。


『いけすかないヤツだぜ?金にこじつけて悪いことは何でももみ消してた。本人もそれを良いことに悪ぶってて、校舎のガラス窓がしょっちゅう割られてたな。


自分は議員の息子だということを鼻に掛けてやりたい放題、


クラスメイトの女を体育倉庫に連れて行って、強姦未遂があったって噂もあった。


だけど親が学校に呼び出されても、全て金で解決』


まこもこの選挙カーが通って顔をしかめながらそう言ってたっけ…




『“行ってみたい・住んでみたい街づくり”をモットーに、右門はこの街をみなさまにとって住み心地のいい街づくりをします!』





選挙カーから聞こえる明るい声が遠ざかっていき、僕は複雑な気持ちでその後ろ姿を見送った。