数学準備室の鍵は開いていた。
無用心なんだから。と思いつつもそうゆうちょっと抜けたところも好きだったり。
部屋に入ると、あたしはすぐにカーテンをきっちり閉めた。
水月がこの時間ここに来ることは知っている。
ラックに積まれたたくさんの参考書たち。机の上に並べられた大きな三角定規や分度器。
ほんの少しだけチョークの匂いに混じって、水月の使ってる柔軟剤が香ってきた。
上着が椅子の上に掛けっぱなしにしてある。
あたしは廊下から見えない位置に身を潜めて、水月が来るのを待った。
特に約束なんてしてないし、今会いに来るのは危険かもしれないと思ったけど、
でもどうしても会いたくなったんだ。
生憎今日は数学の授業も入ってないしね。
ガラッ
と戸が開く音がして水月が入ってきた。
すぐにあたしに気がつくと、びっくりして
「みっ…!」短く声を出した。『雅!』と言いたかったらしい。でもそれを遮って、
「しっ!」唇に指を当て、あたしは戸を閉めた。ついでに鍵も閉める。
きっちりと部屋を閉め切ってから、
「突然どうしたの?」彼から聞いてきた。
「会いたくなって」
あたしがちょっと笑うと、水月に腕を引かれた。



