結香さんは両手をデニムパンツのポケットに突っ込んで、ウェスタンブーツの先で地面を蹴っている。


僕は言葉の意味が理解できずに、彼女の横顔を眺めた。


街灯の灯った夜の公園で、結香さんの白い顔が幻想的に浮かび上がり―――


森本とは似ていないな…なんて思う。


「言葉の通りだよ。どうせあの子あたしのこと遊び好きで、男好きとか言ったんでしょ」


そう言われて、僕は曖昧に頷いた。


そのとーりです。


「ま、あの子からしたらそれが本当かもね。


事実、男友達は多いし、遊び歩いてるのは今まで受験勉強だけで、その反動から。


あたしはあの家族の厄介者で、はみ出し者。


あたしが失敗した分お母さんの期待がエミナに全部いっちゃったの。ま、その分こっちはあれこれ言われなくて助かってはいるけど。ありがちでしょ?」


結香さんはふっと自嘲じみて小さく笑った。


森本から聞いていた印象とは―――随分違った。素直だし、その言葉の裏には何も他意は感じ取れない。


何と言うか……結香さんは―――あの家で孤独なんだ。


何と答えていいのか分からず、僕は飛び跳ねるモカを目で追っていた。


「ねえ先生。先生のクラスにも問題児っているの?」


結香さんもモカの跳ねる姿を目で追いながらぶっきらぼうに口を開いた。


僕は軽く肩をすくめた。


「問題児ばかりだ」


「何それ、大変だね」と結香さんは、はじめて白い歯を見せてにこやかに笑った。