HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



コインパーキングでタバコに火を灯しながら、後部座席のドアを開け乱暴にネクタイを放り投げた。


タバコを銜えたままケータイで雅に電話をする。


TRRR…


短い呼び出し音のあとに、


『もしもし?』と聞きなれた声が聞こえてきて―――急にほっと安心できた。


「僕だけど」自然に笑顔が浮かんで、僕はため息とともに煙を吐き出した。


『何?疲れてる?』くすくすと笑う声が聞こえてきて、僕はちょっと苦笑いを漏らした。


「うん、ちょっとね…」


僕はこうなったまでのいきさつを簡単に雅に話し聞かせた。


もちろん彼女が体を売っている噂や、まこ、と変な関係にある噂の部分は除いて。


話し終える頃にはタバコを一本灰にしていた。後部座席に腰掛けたまま、吸殻を灰皿に捨て、忙しなくもう一本に火をつける。


こうでもしなきゃやってられるか。と若干スレ気味。


『へぇ。一週間もサボり?やるね』雅はどこか他人事のように笑った。


「雅は森本さんとは親しくない?何か悩んでることとか知らないかな?」


『知らない。あんまり仲良くないもん』と想像したとおりの答えが帰ってきて、がくりと項垂れた。


「それでも生徒同士だと、僕たち教師は気付かない何かを感じ取ったりは…」


『他人に興味ない』


またもばっさり言われ、ますます頭を項垂れていると、


コインパーキングの入り口を女の子が一人、犬を連れて通り過ぎていった。


チェックのシャツに短いデニムパンツ。


連れている犬はポメラニアンだ。


「悪い、雅。あとでまた電話する」


慌てて電話を切ると、タバコを灰皿に捨てた。