森本はその質問に答えず口を噤んで、そっぽを向いている。
母親は勢い込んで森本の肩を掴んだ。
「エミナ!」
「痛い!離してよっ」
「ま、まぁまぁお母さん。彼女にも心の悩みと言うか…プレッシャーがあって」
僕が遮ると、森本の母親は迷惑そうに顔をしかめた。それでも一応話を聞こうという体制で、僕をちらりと見ると眉を寄せた。
「…とりあえずこんなところもなんですから、お入りになってください」
僕は二人にバレないよう、そっとため息をついた。
とりあえず門前払いだけはまぬがれたようだけど。
さて、次はどうでるか―――
立派な居間に通され、勧められるまま大きな革張りのソファに腰を降ろした。
きれいな梅の花が描かれた湯のみに、香り高い日本茶を出され、
「カフェインの取りすぎはよくないですから。うちでは夜18時を過ぎたらもっぱらお茶にしているんです」
と森本のお母さんはそっけなく言う。その割には客人に対する労いの気持ちが見て取れた。
「いえ、おかまいなく。あの…それで…」切り出そうとしたとき、
「学校でのエミナはどうですか?」とお母さんが一足早く聞いてきた。
森本はお母さんの隣で顔を背け、上質なカーペットに視線を彷徨わせている。
「ええ、エミナさんは……」言いかけて、軽く咳ばらいをした。
しっかりしろ!僕は担任じゃないか。
渇を入れてまっすぐにお母さんを見ると、彼女はちょっと唇を結んで僕の次の言葉を待っていた。
「授業態度も真面目ですし、成績も申し分ないです。クラスの委員会なども積極的にこなしてくれて、とてもいい子です」
「……そうですか…」
僕の言葉を一通り聞いて、お母さんはほっとしたようにちょっと頬を緩めた。
それを見て僕もそっと胸を撫で下ろした。
「学生の本分は勉強ですけど、ただ、彼女はがんばり過ぎて少し疲れているみたいなので。勉強以外にも息抜きが必要だと思います」
「息抜き?」
お母さんはちょっと眉をしかめて険しい目で僕を見返してきた。



