「どうも。エミナの母です」


森本の母親はちょっとしかめ面をしていたが、それでも開口一番に怒鳴られることはなかった。


ワンワンっ!


すぐ近くで犬の鳴き声がしたかと思うと、お母さんの足元からするりと小さな犬が飛び出してきた。


ふわふわのポメラニアンで、キャンキャン吠えると、僕の足元に纏わりついてくる。


飼い犬かな?ゆずを見ているようで微笑ましかった。大きさも一緒ぐらいだ。


「こらっ!モカ!もうあっちいって」


森本はちょっと乱暴な物言いでその犬を叱ると、モカと呼ばれたポメラニアンは面白くなさそうに家に入っていった。


「……すみません。ペットなんですけど…お姉ちゃんの言うことしか聞かなくて」


森本は忌々しそうにモカが走っていた家の方を睨んでいる。その様子にたじろぎながら


「あ、はじめまして。夜分遅くに申し訳ございません。森本さんの担任をしております……」


と慌てて森本のお母さんに頭を下げた。


「存じ上げております。神代先生でしょう?保護者会でお会いしたことがありますから」


そつのない話し方だった。同時にびしゃりと遮断される厳しいものでもある。


だが、病院長夫人にふさわしい気品と教養もありそうだ。


森本の母親は僕をちらりと見ると、すぐに森本に視線を移し、


「エミナ!一週間も予備校さぼったってどうゆうこと。今日予備校の先生から連絡があって、お母さん倒れそうになったわ」


と母親は額に手をやった。