梶の意見にあたしは顔を上げた。
「聞くって、久米くんに!?そんなのたとえ犯人だとしても素直に認めるわけないじゃん」と乃亜が呆れたように肩をすくめる。
「直接聞くわけじゃないよ。それとなく聞くんだ。例えば前どこに住んでた、とか普段何をしてるとか。男同士だったら何かと聞きやすいし、気を許すんじゃねぇのか?」
「ああ…それだったらいいかも。あたしも…あたしも明良や両親に聞いてみるよ。二年前の事件のことあたしより詳しく知ってるはずだし」
「お!なんか幸先いいじゃん♪案外早く片付くかもな」なんて言って梶は乃亜とハイタッチなんかしてる。
あたしはそんな二人を眺めながら、それでも表情を緩めることはできなかった。
これはそんなに簡単な問題じゃない。
それに……
「二人ともありがと。だけど二人は手を引いて。これはあたしの問題だから」
乃亜と梶は怒ってるような悲しんでいるような複雑な表情であたしを見る。
「何だよ。そんな関係ない、みたいな言い方…」梶が声を低めてちょっとあたしを睨んできた。
「分かんないの?あたしはあんたたちを巻き込みたくないの。
犯人はあたしの近くにいる人間を敵視してる。傷つけようとしている。
だからあたしは保健医にも近づかないって決めたし、
水月とも離れることにした―――」
耐えがたいことだけど、彼らを巻き込むわけにはいかない。
考え抜いての決断だった。
あたしはこの決断が間違ってるとは思わない。
あたしの真剣な視線を受けながら二人とも口を噤んだ。
再び沈黙が降りてくると思いきや、乃亜がスカートをぎゅっと握ってあたしを見つめてきた。
「雅の気持ちは理解できるし、それ以上に嬉しいけど、でもあたしたちだって同じぐらい雅のことを助けたいと思ってる。
雅はいつだってあたしを助けようとしてくれた。今度はあたしの番。
一人で犯人を捕まえようなんて無茶しないで。
もし雅に何かあったら、あたしたち後悔だけじゃ済まされない」



