HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



乃亜には紅茶を、梶にはコーヒーを出してあたしはソファに落ち着いた。


「順を追って説明する」


そう言い置いて、あたしは今まで靴箱に入っていた手紙の束と、ストーカーの野郎から送信されたメールを見せた。


二人は手紙とメールを見て、目を開く。


梶は、


「これってストーカーじゃね!?」と怒っているような、驚いているような複雑な声を上げていきりたった。


一方の乃亜は最初こそ驚いたものの、手紙を見ながら目を細めている。


「乃亜に聞きたいんだけど、あたしがストーカーに遭ったのってこれがはじめてじゃないよね?あたしは忘れちゃってるけど、前にも遭ったよね?」


あたしの質問に乃亜は唇を結び、真正面からあたしを見据えてきた。


「答えて」あたしが手紙の束を指で叩くと、乃亜は逡巡するように視線を泳がせた。


「大事なことなんだよ。今回の犯人はそいつかもしれない」


「忘れてるって……記憶から抜け落ちてるってこと?」梶が心配そうに眉を寄せている。


あたしは無言で梶を見据えた。


「それって記憶喪失ってやつか!?」


「分からない。記憶が欠落する原因には頭を強く打ったりする直接的な要因と、精神的なショックを受けたダメージくるから来る間接的な要因がある」


あたしはどっちなの?


乃亜にそう目で訴えると、乃亜は眉を寄せてあたしから顔を逸らした。


「乃亜、大切なことなの。今回の犯人がそいつだったら、あたしが失った記憶を取り戻さないとそいつと戦うこともできない」


「闘うって…。まずは警察だろ!?ストーカーなんて精神的に異常なんだよ!こんなヤツが鬼頭の周りをうろうろしてて、お前に何かあったらどうするんだよ!」梶がテーブルを叩いて怒鳴り声を上げた。






「無駄だよ。警察は何もしてくれない。


正確に言うと何もしてくれなかった―――2年前も……」






乃亜が何か決心を固めたかのようにゆっくりと顔を上げた。