僕は姉さんの自由奔放で勝手な人柄を包み隠さず言って、それでもいいところもたくさんあることも伝えた。


「だから一度みんなでちゃんと向き合ってみるべきだ。何なら僕がお母さんとお姉さんにお話するよ」


僕の申し出に森本は慌てて首を振った。


「お母さんは、先生の話を一応は聞くと思うけど、たぶんそれだけ。何も変わらないと思うし、姉は、聞く耳持たないと思います」


言って、そしてちょっと考えるように眉を寄せると、


「…もしかして先生を好きになるかもしれない」と低く言った。


「それはないよ」僕は笑うと、


「ううん!だってあの人かっこいい人には目がないもん。面食いだし」と、最後の方は小声になって、ちょっと恥ずかしそうに顔を俯かせる。


面食い…って、僕はそれほどでもないけど…


なんてこの際どうでもいい。


「とりあえず、今日送っていったときお母さんに少し話を聞くよ。ちょっと話を聞くだけだから、それならいい?」と聞くと、森本はちょっと迷ったのち、また僅かに頷いた。


落ち着いたところを見計らって再び車を発車させると―――


「何で……」


と森本はぽつりと漏らした。





「何であたしは鬼頭さんに勝てないんだろう」






そこで雅の名前が出てきたことに驚きつつ、それでも平静を保ちながらちらりと森本を見る。


「あたし、成績であの人に勝ったためしがない。勉強してる素振りなんてないし、いっつも授業中寝てるのに……」


森本は唇を噛みながら、忌々しそうにミラーにぶらさがったスヌーピーを睨んでいた。


そのスヌーピーが雅によってつけられたことを見抜いているように、射る様な冷たい視線。


はじめて見るその険しい視線にたじろぎながらも、


「何でだろうね」


僕はそう返すしかなかった。