「私もさ…直樹が好きなんだ」


遠くに見えるベイブリッジから、自分のローファーに視線を落とし呟いた。


「知ってるよ」


渓が笑いながら言う。


だと思ってた。


前にカラオケ屋で話した時に、渓は言ってたもんね。


今まで陽介にしか言わなかった。


しかも、あの時は断言できなかった。


でも、初めて好きなんだとハッキリ口に出して言えた。


自然と緩む口元。


だけど、そんなフワッとした気持ちと同時に、前に渓が言ってた直樹のことが気になってくる。


忘れられない人。


誰とも付き合わないと思うよって言葉。


あの時は安心感すらわいた言葉が、今は不安に感じる。


直樹は、その人だけを好きでいるんだ…。


いくら私が好きになっても、それを伝えたとしても気持ちが通じることはない。


母親と同じ結末になるんだ…。


自分が好きでも、好きになってもらえなかった虚しさが繰り返される。