歩いて

放課後、学校近くのファストフードで知香と勇太くんを待っていた。



しばらくすると、勇太くんが走って店に入ってくるのが見えた。



「勇太」


知香が勇太くんを呼ぶ。


その顔は汗が大量に吹き出ていた。


「ごめんね、待った?」


勇太くんは私の前に座る。


「早かったね。それより汗ふいてよ、汚い」


「ごめん。授業が終わってダッシュできたから。果菜も忙しいのにごめんね」


勇太くんは、汗まみれの顔を私に向けた。


「…」


言葉につまった。



知香や勇太くんと話していると、私自身正直になれる気がする。



いつもみたいな張りつめた気持ちを、ゆるめてくれる気がする。



不思議な感覚。



勇太くんは、かばんをごそごそしている。



私は、自分のかばんからハンカチをだし差し出した。



「いいよ、果菜。ハンカチが汚れるよ」


「使って。汗すごいから」


勇太くんにハンカチを渡す。


「…ありがとう」


勇太くんは、笑顔でハンカチを使う。



ハンカチで、顔中を拭く。



私は、自然に笑っていた。



この人には、自然でいられる。



強がったりすることもない。



素直にいられる。



私は、不意にそう思っていた。