歩いて

夜は更け、深夜。




患者さんは寝静まり、病棟はひっそりとする。




自分の担当部屋の見回りを終え、病棟へ戻る。




木下さんが、ナースステーションにいた。



「大丈夫?何かあったら言ってね」


木下さんに声をかける。



「はい。ありがとうございます」


私は、パソコンに入力しながら、


「木下さんは、どうして循環器志望なの」


「…」


突然の質問に、木下さんは困惑した顔になった。


「あっ、ごめんね」


「いえ。
私の父が心臓が悪くて、何度も入退院を繰り返していたんです。それで、身近に看護師さんの働く姿を見て、あこがれて循環器を志望しました」


「へー、お父さんは今は?」


「元気でやっています。
春川さんは?」


「…私は、友達が心臓の病気でずっとそばにいたから。私にも、友達になにかできるかなーとか、病気に対しての知識をつけたいと思って」


「そうなんですか。友達は今は」


「死んじゃった。私が看護師になる前に…ていうか、死んだから看護師になろうって思った。私は、友達になにかできたんじゃないかって知るために」


「すいません」


「こっちがごめん。変な話して。
お父さん、看護師になって喜んだでしょ」


「はい」