自転車を漕ぐ。
あいつのアパートまで。

ただひたすらにペダルを漕ぐ。
いつもそうだ。いつも。



5分前、期限を過ぎたレポートと
汗をかいた飲みかけの缶ビール。

携帯電話が鈍い音を立てて振動した。

液晶画面には彼からのメッセージ。
「この前言ってたDVD、杉山から借りた」

文末の魚の絵文字がぴこぴこと
一定の速さで動いていた。



そして私は自転車を漕いでいる。
あいつのアパートまで。

東京の8月はこんな夜遅くでも
蒸し暑く、空気が湿気ている。