大家のオヤジは、俺と距離を置いたままだ。


「追い出す?
とんでもない。真部くんだって、こんなアパートよりアソコのマンションに住む方がいいだろう? 他の住人さんは喜んで出ていったよ。

おまけに引っ越し業者さんまで来てくれていて、役所の仕事にしては手際がいいから不信感を抱いてるのかもしれないけど

誰が何と言おうと、このアパートは明日取り壊されて、国道を作るための資材置き場になる」


引っ越し業者の兄ちゃんは、腕時計を確認した。


「話がよくわかりませんが、我々は引っ越しのお手伝いをさせていただくだけです。

時間が過ぎると延長料金は、お客様負担になりますが……」





俺は、二人を睨み付けた。



「わかったよ……

引っ越せばいいんだろ?
さっさと出てってやるよ」


ギシギシ音がなる階段を上がって、自分の部屋の鍵を開けた。


李花との想い出が、たくさん詰まったボロアパート。

はじめて李花が泊まりに来た夜は、李花がカレーを作ってくれた。

鍋の底が焦げてて
黒くて苦い物体が浮いてた、世界で一番美味いカレーだった。




「後は、我々にお任せください。全てお任せパックですから」


「真部くん、これが新しい部屋の鍵だよ。家賃は今まで通りの金額で、同じ日に引き落とされるからね?」


ボロアパートの鍵を手渡し、代わりに真新しい複雑な形をした鍵を渡された。