疲れた……
ビールで喉を潤してから、重い腰をあげる。
それからケースの前に来た。
「淳一?」
そのケースに手をかけてロックを解除する。
鍵もない、基盤を開いた時みたいに安易にケースは開いた。
中には、ギッシリ詰まった札束。
「本物……」
それを手に持つ。偽札とか、そんなものじゃない。
一つのケースに十億円。
二つで二十億円。
本物の金だ。
「これを何に使う気だ! まさか、びっくりなんとかの商品開発費とかにするわけじゃないだろうな!」
アイツに怒鳴りつける。
楽しい雰囲気を一気にぶち壊した。
ゼンは、黙ったまま俺をジッと見る。
「黙ってないでなんとか言えよ! 場合によっては、佐伯さんに連絡してSECOI警備会社を呼ぶぞ!」
「じゅんちゃん……」
ゼンは、缶ビールを飲み干す。
「撤収だ」
「所長!」
「行くぞ。淳一を拘束しろ」
「所長!」
どっちなんだよ……
どっちが本物のアイツなんだよ……
「おまえ! 今すげー悪人面してるぞ!」
「そんな事、言われ慣れてるから何とも思わない。
最後の晩餐くらい、楽しくやりたかったな……淳一」
「やめろ!」
押さえつけられて、後ろ手に縛りあげられる。
「睡眠薬飲ませてやれ。明日の朝には諦めがつくだろう。
眠らせてやれば楽になる」
「ゼン!」
おまえは、違う。
何か理由があるはず……
頼むから俺にも……
「ごめんなさい。淳一くん。
これは使いたくなかったわ」
口から流し込まれた薬物。
手段が卑劣で、手慣れている。
薄れていく意識の中でアイツが言った。
『サヨナラ、淳一』