社長は、新しく仕事をはじめて『今日は、大切な仕事がある』と言っていた。
このことだったんだ……
意外なキャストの登場に、俺の心臓の音がウルサい。
二十億のキャスターが動き出す。
「待ってくれ! 人員が増えた話なんて聞いていない。その荷物から一度手を離せ! 支社に確認の連絡をする」
社長が、アイツの前に立ちはだかると意外なほどアッサリとアイツは手を離した。
「そうだな。そうしよう、支社に連絡をしてみよう。SECOI警備会社の信頼にも関わる問題だ」
「まったく! どーなっているんだ! お前たちの警備会社なんか二度と使わないからな!」
ポツンと置かれた二十億のキャスター。
頭取は、アイツと佐伯社長に激しく抗議する。
今が、チャンス?
手を伸ばすと、案外簡単に二十億のキャスターに届く。
それを掴んだ瞬間、頭の中で何かがスパークした。
それと同時に走り出す。
「あっ! 待て!」
「なにしてる! アイツを追え!」
二十億……
ズッシリ重い……
これだけの金があれば、一生遊んで暮らせるのか?
カリブ海とかで、白亜の城を建てたりできるのか?
って、違うだろ。
邪なこと考えてる場合じゃねーよ。
酷い音をたてて通路を引きずりながら走る。
エレベーターの反対側に緑色の非常口ランプが見えた。
キャスターから手を離さないように、強く握る。緊張して手が汗ばんだ。
これって何かの罪になるのか?
とにかくコレをアイツだけには、渡したくないだけなんだけど……