次の狙いは、武尊之銀行に内密に支援金として渡される二十億。


アイツは、俺を使い
同業者タカシくんを出し抜き
その金を独り占めしようとしている。



「李花、悪いな。俺、仕事に行ってくる」


「えっ?」


アイツは、まだ俺を騙して使おうとするか

それとも、もう使えないと切り捨てるだろうか


わからないけど、阻止するべきだ。







騙されてやるよ……

それで、阻止してやる。

急いでスーツに着替える。
ネクタイは、ジャケットのポケットにしまった。

もうフック式は使っていない。



「李花、この部屋から出るなよ? 誰かに聞かれてもこの場所は教えるな。何かあったら俺に電話してくれ」


大口で唐揚げ弁当をかき込む。
烏龍茶でそれを流した。


目を見開いたままの李花は、パックのアップルティーをチューと音をたてて飲んでいる。


「冷蔵庫の中身、好きに食っていいから」

「うん、いってらっしゃい」


玄関で革靴を履く。

すると、ラフなワンピース姿の李花が後ろから抱きついてきた。


「李花、悪い。急いでるから……」


李花の腕は離れない。


「李花」


「……じゅんちゃんのスーツ姿、カッコいい……」



「嗚呼、サンキュ! じゃ、俺いってくる」


「カッコいいけど、そんな怒った顔してるじゅんちゃんヤダ」


「李花、悪いけど……」


そんなこと言ってる場合じゃねーんだよ。
武尊之銀行への支援金は、いつ受け渡しがあるかわからない。

今日かもしれないし、明日かもしれない。


「じゅんちゃん、今の仕事楽しい?」


「楽しい? そんなの関係ないだろ」



だけど、李花は引かない
洗いたてのスッピン顔。

スッピンだけど、その瞳は充分大きくて可愛い顔をしている。



「楽しかったよ……昨日まで」