くたびれたスーツに、擦り切れそうな皮靴。

よれよれの鞄。


城田部長は、垂れ目でちょっと笑い顔のまま駅に歩いていく。



「城田部長は、アイツと付き合い長いんですか?」


「すみません、アイツですか?」


「はい、あのゼン所長とは……」


「ああ、ゼン所長ですね。
すみません、素晴らしい方です」


「そうですか? 俺には、ふざけてる男にしか見えませんけど」


城田部長は、「ぐふふ」っと変な笑い声をあげてから「すみません」と謝った。





「ゼン所長は、潰れかけのトリックスターズの株を買い占めて起死回生の立て直しをしてくれた方です。

すみません。私は、以前のトリックスターズの時からずっと営業をしていました。

売れない手品グッズを売り歩いて、毎日毎日断られて……」


城田部長の垂れ目が一瞬切なそうに、細められた。


「社員も、どんどんいなくなって
会社の規模もどんどん小さくなって……


でも、ある日突然会社の株を公開買い占めするという彼が現れて

どうせ潰れる会社の株だと、元株主たちは株を売りました。

彼は、『経営方針に口出しするつもりはない。君たちは、今まで通りに働いてくれ』と……そうするうちに

いつの間にか、こんな大企業に


すみません」