──フック式のネクタイかよ……


俺がネクタイなんて締められないの承知して用意されたのか?


用意周到じゃねーか。
確かに普通のネクタイだったら、不格好に締めたネクタイ姿をさらすことになってたかもしれない。


だけど着替えを済ますと、別人になった気分。

スーツなんて成人式以来。職場の先輩に借りたスーツ以来だ。


「普通に社会人に見えるじゃん俺」


衣装部屋の鏡で、立ち姿を確認する。


「これに先に着替えてたなら、もっとユカリさんに気の利いたセリフが言えかもしれない」


いや、そんなわけないか

所詮中身は、俺だ。



スッキリしない気分で所長室に戻る。


そこには、ゼン所長とユカリさん、佐藤さんたちが集合していた。

暗雲は、もっとドス黒いものに変っていた。


「ユカリさん、どうしたんすか?」


ついに女グセの悪さから、社員一同ボイコットで起こすのか?


所長は、さっきの魂が抜けた姿とは違った。

男前な顔を真面目にしてパソコンの画面を睨みつけている。






「脅迫状が、送られてきた」


「きょ……脅迫状?」


ここって

そんな物騒なもんが送られてくる会社なのかよ!!