「あ、それよりさ、藍」



 極度のショックで黒いオーラを醸し出していたであろう私に、再び声を掛ける太陽。私はそちらを見ずに、ん?と続きを促す。



「久々、一緒に帰ろうか」



 何かを考える前に、顔に熱が集まっているのを自覚した。確実に茹蛸程に真っ赤だから、見られたくはない。決して彼に顔を向けるまいと、帰る準備を進めていく。



「え…な、何で」


「昔はよく帰ってただろ?逆に理由とか必要?」


「む…昔は、昔じゃない」



 さっきのあの子は、…だなんて、臆病を極めた私には、到底聞けっこなくて。


 私が荷物を纏めたところで、彼も鞄の取っ手を掴む。


 無言で揃って歩き出した私たちは、どう見えるのだろう…一瞬考えて、虚しくなってやめた。


 誘ってきた彼の笑顔は、どうしても温か過ぎて、心が温まるどころか火傷を負ってしまいそうだ。


 昇降口で、ぽん、と音を立てて、傘が開く。こんな音一つ一つが、何とか間を繋いでいく。