「眩し……っ」



 それは、梅雨の季節のこと。


 ノブを捻り、ドアを押し開けた瞬間、光が差し込んでくる。東向きのマンションの玄関を、恨んだ瞬間。


 まだ朝だとは思えない高さの太陽の光が、雨粒に乱反射する。私の瞳に届くそれの、強きことと言ったら。


 既に衣替えを済ませ、夏服へと移行した。通学路を歩き出してものの五分、肌に纏い付く気持ち悪さ。


 降りしきる雨に思わず溜息が漏れ、その音が耳に届いたことで余計に気分が盛り下がる。どうせなら、雨音が掻き消してくれればいいのに。


 冷房はまだ入らない教室で、いつも通り今日も、暑くて苛々するのだろう。窓を開けても風の当たらない、柱真横の最悪の席。―――ここまで考えて、私は気付く。



 今日は期末試験が終わった翌日。毎試験後にある席替えが、今日のホームルームで行われる。つまり、あの不快な席には、もうおさらばということだ。


 そう思うと幾分か心も晴れて、学校への道程の億劫さも軽減された。



 ぼたぼたと降り続く雨の中で、水色に白の水玉模様の傘を差し、駅までの道をてくてくと歩く。そこで目に留まった見慣れた背中に、声を掛ける勇気が出ない。


 胸の奥で膨らむ、期待と不安。後者のほうが、断然に大きい。仮に声を掛けることは出来たとしても、その後どうすればいいのか。隣を歩くべきか、通り過ぎるべきか。その判断さえ自分自身に任せていられない。


 幼馴染。その筈なのに。