君だけは離さない






響の機嫌がいい。



いつも仏頂面でいる響の表情は明るく、時折笑顔が浮かんでいる。


仕事中はいつにも増して特に仏頂面な為、会社中が妙な空気に包まれている。


響は溜まっていた書類に目を通し猛スピードで仕事をこなしている。一分一秒でも早く自宅に帰る為だ。



美桜の顔が見たい。


美桜の事が知りたい。


美桜に触れたい。




手を休める事はなく、そんな事ばかり考えていた。




早々に仕事をこなし、会社を後にした。

途中何軒かブランドショップに立ち寄り美桜くらいの年齢の女なら誰でも好むであろう服、靴、鞄、アクセサリーなど大量に買い込んで自宅へ戻る。



急ぎ足で美桜の部屋へ向かいドアをノックするが返事がない。
ポケットから美桜の部屋を施錠している鍵を取り出し、中へ入るが会いたくて仕方がなかった愛しい人の姿が見えない。



「美桜!どこだ?どこにいる?!」



美桜を探しているとバルコニーへ繋がるドアが開いている事に気が付き近付いた。




そこで響が見たのはバルコニーの隅で膝を抱えながら眠る美桜の姿だった。