君だけは離さない





気持ちが落ち着いた頃――――部屋の扉をノックする音に我に返って慌てて返事をした。





「は、はい」

「失礼します」




入って来たのは60歳くらいの優しそうな女性。




「おはようございます。お嬢様。私は今日からお嬢様のお世話をさせていただきます、橋田菊子と申します」

「おはようございます。初めまして。高瀬美桜と申します。お世話になります」

「坊ちゃんから話は聞いております」

「そうですか……」

「お嬢様、ここにいらっしゃる間は私に何でもお申しつけ下さいな。どんな事でも構いません」

「ありがとうございます……橋田さん」

「菊とそうお呼び下さい。ここの者は皆そう呼びますので」

「はい。菊さん」




この家に連れて来られてから初めて笑った。菊はまるで祖母のような雰囲気だからか安心出来た。





ポッと花が咲いたような美桜の可愛い笑顔に菊子も嬉しくなった。




「まぁまぁまぁ何て可愛いのでしょうか……お嬢様、不安もあるでしょうが、そうやって笑っていて下さいな。そうすればお嬢様にとっていい事が必ず訪れますから」



菊に手を握られ全て分かっているかのような言葉に、美桜は思わず菊にしがみついて泣いていた。