「…なんか久しぶりに汗かいたな」
部活終わりの帰り道、照れくさそうにゲンキが言った。彼が部活に参加しないでいたのは、ちょっとした理由があった。ゲンキは少し前に部内でトラブルを起こしていたのだ。監督と些細な事から口論になり、カッと来た彼はバットを投げ付けてた。それが運悪く監督の顔面に勢いよく直撃し、鼻骨粉砕骨折。そのまま監督は野球部の顧問を辞任してしまった。今年の三年生は有望視されていたが指導者を欠いた事によるダメージは事の他大きく、春季大会を初戦敗退としてしまった。その後監督も変わり、ゲンキは戻ってくる様にとの勧めがあったのだが、罪悪感からか、活動を自粛していたのだ。そんな心の闇をマミが一瞬で振り払ってしまったのだろう。久しぶりに野球を楽しめたゲンキの表情は晴々としていた。そんな彼の顔を見た俺は、少し安心して、
「ま、たまには野球も悪くないな」
と言うと、彼はフッと小さく笑い、こう言った。
「素直じゃねーなー!」
世の中で1番素直じゃないと思っていた奴に言われてしまった。
俺は、彼には見えない様、見上げた先の夕日にだけ笑顔を見せた。