あの要求は許可された。
快くは思っていないみたいではあるが。
そして、驚くべきことに手術跡も残らない。
私の、顔。


『郁の望みなら』

『何度でもかなえてあげよう』


私の顔は自分ではみたことがない。
私には「郁」の顔しかしらない。
しかも博士の記憶の中での。

私の顔は、もう分からない。
どこかにうつらないものかと思うけど、なぜか鏡がない。
私の顔は歪ではないだろうか。
未完成ではないだろうか…


「やあ、父さん」

「……お前か、そうだ、その子の部屋を紹介してあげなさい」


…!
郁、じゃ、ない。

私は、郁ではなくなったということなのだろうか。
私はまた、1からなのだろうか。


「……うん、わかったよ、任せて」

「あと…その子の…」

「うん、はい、わかったわかった」


ケラケラと笑って彼は私の手を引いて部屋から出た。
さっきも思ったがここは病院か何かなのだろうか。


「そんなにきょろきょろしないの!ここはね、地下実験施設って感じ」

「地下…ですか?」

「うん、父さんの秘密基地みたいな感じかな」


秘密基地…
何か危ない組織とかなのだろうか…。
普通の一般人はきっと地下室なんて持っていない。
しかも手術をしたそのあとに手術をするなんて設備、すぐにそろうはずがないのだ。


「…っ、私」

「あ、君の名前は、俺が決めるから」

「…え…?」

「君はもう、郁じゃないでしょ?」


…博士は、私を郁として作った。
郁として、生きてほしかったはず。
郁を、生き返らせたかったはずなのだ…!


「違うっ!」

「君は郁じゃない」

「博士は私を郁として作ったのです!私の名前は郁以外ない!」

「顔は!!!……顔は、郁じゃないのに?」

「………は…」


変えろと言ったのは、あなただ。
なのに、どうして…どうして…


どうして、そんなに、悲しい顔をする?