ゾンビと吸血鬼の集団が大量発生し、人間が住むステージを支配した。


「あなたたち仲が悪いのね!」

「すっごく空気が悪いクラスだぜ!」


台詞も台詞、激しく棒読みの大根演技をする隣のクラスの生徒集合には、

さすがの嶋もピアノの上で手を止めたようだ。

そして引き気味の観客席も、何事かと関心が穂ノ香から逸れたらしい。



三秒の沈黙の後、野太い声が会場を包んだ。


「アタシたちのが三組より上手だし、二組の皆、準備は良いわね?」

女子高生のファッションをした中年男性教諭による女口調の破壊力は凄まじく、

穂ノ香の狂乱により困惑気味だった体育館全体の爆笑をさらい、

先程までの不穏な空気が吹き飛ばされた。



状況が掴めない穂ノ香や三組の生徒をよそに、二組の連中が舞台を仕切っていく。

それは誕生日プレゼントに文房具をもらって感動できる小学生の心を持った者以外には、

しらけるパフォーマンスなのだけれど、

そのノリに合わせることができて、初めて安い青春が完成するのだと思う。

痛いと引かずに、笑える自分の方が断然に中学時代の財産が増えると信じたい。


「嶋ピアノ止めんなや! 船場は肺活量いかしてゴスペルに歌え!

つか穂ノ香サマお前が指揮しろってこの前言ったろ!

ほら、皆公開口パクでサボんなよ、高校の先生見に来てんだから内申響くぞ!」


それはきっと魔法使いの台本通り。
あだ名がデキ婚の少年が調子良く笑ったから、世界が変わって恋心が軽やかに躍っていく。