「三年一組にもう一度大きな拍手を――……次は三年二組による――」

場内アナウンスは生徒会の仕切りマンの美声で、形式の拍手が塗り替えられる。


期待が高かった二組の謎に包まれたミュージカルは、

幕前でナレーションをしている担任の中年メタボ先生がギャル高校生の女装をしているから既に爆笑で、

ゾンビの男子全員は裏声で、吸血鬼の女子全員は野太い声で歌うから、

ストーリーはよく分からなかったけれど、

とにかく内輪ノリの勢いだけで三十分も乗り切ろうとする滑り具合が、悲惨すぎて面白かった。


なにより和気あいあいとしているのが伝わったので、観ている側もどこか照れ臭くこそばゆい気持ちになれた。


  いいなぁ……

裏方ナシの全員ステージ参加を実行するべく、照明や音響は生徒会にお願いする用意周到さが、

二組のムードをよくあらわしているように穂ノ香は思う。

そして、青春を青春として歩む時間の価値を知っているお調子者が、

キラキラ未来の思い出になるよう今に魔法をかけていくのを、

きっと皆は感じていないのだろうと考えれば、なんだか不思議な心だった。


普通、人間は自分の魅力を認めてもらいたいと、努力や頑張りをさりげなくアピールしたがるのに、

なぜか隠したがる彼の思想が謎だったし、

そこを察知できないクラスメートが酷く幼く感じた。



「普通におもろかったー」

「なんか意味不でウケた!」

こんな賑やかな場所でも、嶋は体育館前で行われる痛い世界に目をくれず、下ばかり向いて活字を追っている。

読書が悪いとは言わない。
ただ、彼が本の国へ永住するせいで、周りと隔離されているのは明らかだった。