保身に走れ!


その手が怖かった。
あの噂に信憑性はないが、あの噂が違うという確証はない。


イケメンなお調子者は、船場のような愚図から他校でも人気な美少女まで、幅広く告白をされようが、

決して付き合うことはなく、振るばかりだったのだけれど、

今まで彼女がいないとは言え、モテる事実に変わりなく、

だとすれば、それなりに噂さながらの経験があるのかもしれない。


  ……、

彼は冗談ばかりでクラスの明るいムードメーカーだが、黙っていれば普通に色気が漂っており、

キスの一つや二つ、知っていそうに思えた。

誠実なルックスとは裏腹に、好きでもない女の子を抱いたことがありそうにも見えた。


「ほら」

いつものお調子者ならば、つまらないギャグを唇に乗せ、手を差し延べるはずが、

今日の彼は紳士的に優しさを披露する。


二人きりの放課後は条件が揃っていると気づけば、急に穂ノ香は危機感を覚えた。


勝手に腕を掴まれ、嫌だから振り払ったなら、勝手に尻餅をつかれたせいで、

デキ婚は渋々、転んだ女子に手を伸ばした。

――――それがどうして?