皆も誰も何も分かっていない。
船場は生まれつき身体が弱く、薬の副作用で太りやすいのだと、
嶋は音楽家の元で育ち、興味ないピアノを強制させられているのだと、
穂ノ香は教育ママの方針で、昔から遊びより塾を優先され人付き合いを知らないのだと、
それぞれに事情があっても知らないのだから、事実のみをイジる三組の皆が本当に悪いのかさえ、
ここまでくれば、中学三年生の少女には謎だった。
「、周防?」
皆は知らない。
穂ノ香を心配するようにしゃがんだ少年の親はできちゃった婚で、
それを彼女の所属するクラスメートがネタにし、デキ婚とあだ名を付けて聞く側の良心が痛む悪口を散々言っていた。
『デキ婚は親譲りに盛るから女子は護身術習えばー?』
『デキ婚とか二世で女ったらしだろ』
顔が良い彼へのひがみ、人望がある彼へのヤキモチ、憧れを捩曲げたでたらめだと分かっていたのに、
一緒になって笑うと、なぜか真実のように洗脳されていた。
イケメンだから性格が悪いはずだ、イケメンだから女遊びをするはずだ、イケメンだから内心クラスメートの不細工を馬鹿にしているはずだ、
自然とそれぞれが自分に都合が良いイメージを、彼に植え付けてしまっていた。



