「文化祭! 手伝ってよ、!」
この人が居たら絶対楽しい思い出になるとあの日から知っていたため、
訴える穂ノ香は掴んだ先にいる人物の表情の裏を見抜く余裕がなかった。
この時、彼女が彼の心の中の想いに気づけていたなら、
華の女子高生を送る未来が変わっていたかもしれないのに――……
「ちょ、周防?! 本気離せや、すおう、周防? とりあえず離せやめろ、痛ぇ」
いつも皆の輪に入らず、一人で澄ましているから、本当の本当は何を考えているのかさっぱり分からなかった。
嶋は根暗、船場は勘違い屋、亜莉紗は性悪、お調子者は明朗、穂ノ香は自己中心的。
従って、彼が大袈裟に吠える意味は、自分が美少女アイドルや可愛い女優のような顔ではなく気持ちが悪くて拒絶されているのだろうと、
穂ノ香は自虐精神で解釈してしまったため、余計に必死でしがみついた。
「合唱、うちのクラス盛り上がんないんだって、ねえ! なんとかしてってば!」
一方的な会話が終わる時、それはどちらかの限界を超えた時。
今回の場合、ヒステリーを起こした穂ノ香ではなく、温厚な少年の我慢が途切れたらしい。
クラスメートに比べ不細工な面だと自覚していたので断られることは把握していたけれど、
まさか拒否されるとは思わなかった。
「来んな! 触んな!」
いきなり世界が長くなった理由は、穂ノ香が床に這っていたせいだった。
何事も引き際が肝心で相手の心境を配慮することが重要なのに、
リアルに対人スキルがない彼女は、相手の地雷が読めなかった。



