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夏の日差しに地面が揺らぐから、人間は余計に暑さを覚え苛立ちがちだが、

そこで頭をイカレさせてしまえば、爽やかな海の煌めきを思い出せるのだと思う。


懐かしい楽譜を広げ、時代に黄ばんだ白とは呼べない鍵盤に右手を乗せてみた。

ドレミを書いてなぞる音はおぼつかない。
不安定な歌は誰にも届かない。


夏休みの練習を他のクラスは決めた日以外も自主的に集まって、青春をしているらしかったが、

案の定、穂ノ香のクラスは初日より積極的に質を落としていくだけだった。


そうして皆が帰った後、一人でオルガンを弾くことが彼女の習慣になっていた。

しかしながら、ちっとも綺麗なメロディーは完成せずに、所詮可愛くない容姿の少女は指先を縺れさせてしまい、

華やかな舞台で学生らしく踊れやしない。


「はあ、」

ため息を吐いたところで何も変わらないのに、どうしても気落ちしてしまう。

一人一人に何の不満もないが、全員が揃った時に発生する楽しくない空気がとにかく嫌だった。


誰かをネタに誰かがイジり誰かがガヤを入れ、誰かが笑う世界の構造が憎たらしく、

哀しみに彼女が首を垂らせば、膨らんだ腿が醜い自分を証明していた。