例えば祖母から同じ話を二回された時、全く聞いていなかったフリをして、
初めて耳にしたと新鮮なリアクションをすることが、孫らしい愛情なのだと思う。
例えば隣のクラスが険悪な空気の時、文化祭の出し物を知らなかったフリをして、
自分の組より面白そうだと、興味津々なリアクションをすることが、
モテる少年らしい愛情なのだと思う。
「え、ありえん、三組合唱とか音ネタで被るじゃん、あれよ二組、俺らミュージカルで歌ジャンルんライバルだな。
そっちが美声で勝負ならこっちは芝居がかった歌で対抗するから。ふ、まあ俺が音痴なのは秘密で」
誰も質問していやしないのに流暢なお喋りを始める少年は、
他クラスの教室にしろ所属していないクラブの部室にしろ、どこに居たってすんなり馴染むから羨ましかった。
穂ノ香が彼のようなコミュニケーション能力に富んだ性格だったなら、
きっと明るい言動がとれているため、好きな人とも気軽に仲良く会話ができているのだろう。
「感動に音痴は関係ないし。な、嶋?」
好き、
好きなのに
沈んでいた三組を綺麗にキラキラさせる二組のお調子者に片思いをしたいところだが、
穂ノ香が恋をする相手は、やはり嶋でなければならなかった。
なぜなら、皆が嫌う『オカマちゃん』を好きになれる子なら、
きっと孤独な星から舞い降りた王子様に惚れてもらえると思えたからだ。
「あ、ネタバレするから秘密秘密、ミュージカルの中身はサプライズだから聞いても秘密」
誰も相槌を打たない状況さえどうでもいいのか、お調子者が独演を続ける時だ。
背後から現れた小さな子供が言った。
「お兄ちゃんゾンビするんだよ」



