「嶋ー、もうちょい強く弾いてくれない?」

ドラム缶みたいにくびれがない体型の指揮者が、タクトみたいに折れそうなスタイルの伴奏者に微笑みかける。

二人は皆の話題のエサ、二人は皆の嘲笑の種、二人はある意味お似合いの三組嫌われツートップだ。


「オカマちゃんって一生独身ぽいよね?」

「あー、分かるかも。あんな旦那とか私でも無理だよ」

「ねぇー。嶋って保育園の時からずっと友達居ないらしいじゃん、逆にウケる」

意地悪な会話の発信源は、亜莉沙と穂ノ香だ。

本当は悪口を言いたくないのに、頷かなければ親友の機嫌を損ねてしまいそうだから、

しっかりと「本当きしょいよね」と、一生懸命に笑えていた。


絶対に聞こえている癖に、嶋は動じやしない。

それは穂ノ香が彼に何も想われていないと知るには十分な反応だった。



ピカピカな可愛らしい恋愛は、眉毛を剃れても描けないポジションの生徒には無理な物語だった。


あの少年にときめくことを許可されているのは、お姫様みたいな乙女なのだろう。

目を閉じれば自然と童話が開かれる――お花畑の国でワンピースの裾を広げた色白の人。

刺繍で飾り付けられた表紙には愛の言葉が添えられる――笑った顔はおっとりとして滑らかな長い髪がきっとよく似合う人。

穂ノ香とは正反対で、鏡の前が定位置の人。


この片思いは内面には何の落ち度もないのに外見のせいで告白さえせずに妄想の世界で終わるのだと思うと、

とうとう彼女は自分も大嫌いになりそうだった。


そんな時だ。


「えー、お前ら何やってんの?」

よく通る声が、合唱コンクールから初めて嶋の伴奏を止める。