四角く切り取られた世界から侵入してくるのは、

野球部の掛け合いと吹奏楽部の手慣らしなどのどこか侘しさを感じる青春のメロディーたちだ。

そんな友情にカーテンが薄く揺らぐ。


  あーあ。

  うっざいなぁ

机を教室後ろに運び、出来上がった空間は数週間後の体育館ステージに見立てられている。


当然のことだが、放課後練習に残るのは真面目な子だからオルガンの音がむなしいだけで、

更には周りが声量を抑えるせいで消極性が伝染し、誰も歌わなくなるし、

指揮者は紹介するまでもないが衿の詰まって苦しそうな船場である。


文化祭に向けての最初の練習が、まさかここまでまとまりがないなんて思わなかった。

中学生活最後だし、なんだかんだ盛り上がると期待した穂ノ香が馬鹿だった。


委員長の船場は良い意味でノリが軽い男子が居ないプラス、参加メンバーが大人しいということから少し得意げに仕切って、

「嶋、準備いい?」と、普段のキャラクターとは違い、

親しげに話しかけていたところが穂ノ香のカンに障った。


「歌ってくださーい」

船場がクラスメートから嫌われているのは、何も外見ばかりが要因ではなく、

相手によって卑屈になったり威張ったり態度をコロコロ変える性格のせいもあると思う。


現に、彼女と同様にぽっちゃりしている女子がクラスに一人居るのだけれど、

その子は太っている点をマイナスにイジられることはなく、明るい言動からマスコット的な存在になっていた。


そう、実は思春期はルックスより教室でのキャラクターが作るポジションの方が重要視されているのである。



歌がないまま時間が過ぎ、

たった五回、たった五回の合わせでお開きとなり、穂ノ香はますます三組が嫌いになったのだった。