二組を忘れていますよと勢いよく立ったのは、去年穂ノ香を指揮者に仕立てた例の少年で、
彼一人によって、たちまち厳格だった体育館には使い古されたネタで笑いが起こった。
友達数人と小銭を握り歩いたたんぼ道、カエルの鳴き声に比例して額に垂れる汗、
ラムネジュースを一気に振って炭酸が溢れ出した幼き夏のような清々しさを確かに感じた。
「ティーチャー空気が読める大人なら卒業前の可愛い子供ちゃんに思い出くださいよ! 頑張ったで賞!」
そんな風に校長先生を差し置いて体育館の主役となった少年が属する三年二組は、
成績に影響する合唱コンクールなのに、皆で肩を組んで歌ってふざけていたし、
そもそも指揮者のタクトがお姫様アニメの変身ロットだったし、男女全員が前髪をお揃いのリボンで結んでいたし、
それはそれは他者がシラケがちな悪ノリってやつで、案の定三組のメンバーらはダサいと彼らを嘲笑っていたが、
穂ノ香角度だと、隣のクラスはまるで幼稚園のお遊戯会みたいに可愛らしく微笑ましかった。
生徒全員が同じ方向を見る姿勢は奇跡に近いと、自分たちの出来を比べなくても分かる事実だった。
もちろん、他の学年の者たちからは爆笑が起こり、先生たちも最初こそ難しい顔をしていたが笑って――馬鹿みたいなパフォーマンスを前に皆が自然と心を和ませていた。
これをショートコント・青春と呼ばないならば、何と語れば正解なのか。



