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梅雨入りした重たい空は灰色の雲が天井となり、世界が狭くなったような錯覚になる。
葉の表面から滴る水が控えめに地面につくられた鏡の中に落ちていく。
娘の勇姿を録画中の熱血な父親や無理矢理PTAを押し付けられて憂鬱な母親、
孫見たさで嫁に疎まれながら出席する祖父母、意味も分からず連れて来られた兄弟、
だだっ広い体育館で行われる合唱コンクールは穂ノ香にとっては中学生活大切な行事なのだが、
彼女のクラスは全校の中で最悪の出来だった。
やる気もないし志気もないし、なにもない。
ピアノだけが単調に流れ、口パクと少量の歌声しかない時間でも動じず、
嶋は涼しい顔で黙々とピアノを弾いていただけだった。
指揮者をほったらかしよそ見ばかりしていた穂ノ香だから、楽譜を畳む姿にさえ恋をしているつもりだったのだが、
どうしてかこの片思いは気分が優れない。
「な、一番前の左から三番目のやつキモくね?」
「うっわ、お前イジるなって、ありゃあ笑えねぇキモさだ、やべぇウケる」
「あはは、男子笑ったらかわいそぉーじゃんかぁ」
普通は初恋の最中、ドキドキしてキラキラして明るい世界になるだろうに、
穂ノ香の場合はイライラしてジメジメして暗い世界だった。
それは彼女が三年三組の生徒だからなのかもしれない。
あーあ。早く帰りたい
つまんないの
ステージには、先輩を恐れ膝が見えるか見えないかの制服スカートから肌色面積が少なく、すぐに白いソックスで足を支配されている女子や、
先生を気にしてシャツをきちんとスラックスのウエストに入れていたり、シールや落書きといったアレンジを加えていない名札をきちんと付けている男子が、
まだ小学生の顔つきを残した初々しさ満開で課題曲を歌っている。
子供のように清々しい一年生の彼らと、大人になる前の三年生の自分たちのどちらが本当は幼いのか、
中学生活が不快な理由をクラスメートに押し付ける少女には分からなかった。
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梅雨入りした重たい空は灰色の雲が天井となり、世界が狭くなったような錯覚になる。
葉の表面から滴る水が控えめに地面につくられた鏡の中に落ちていく。
娘の勇姿を録画中の熱血な父親や無理矢理PTAを押し付けられて憂鬱な母親、
孫見たさで嫁に疎まれながら出席する祖父母、意味も分からず連れて来られた兄弟、
だだっ広い体育館で行われる合唱コンクールは穂ノ香にとっては中学生活大切な行事なのだが、
彼女のクラスは全校の中で最悪の出来だった。
やる気もないし志気もないし、なにもない。
ピアノだけが単調に流れ、口パクと少量の歌声しかない時間でも動じず、
嶋は涼しい顔で黙々とピアノを弾いていただけだった。
指揮者をほったらかしよそ見ばかりしていた穂ノ香だから、楽譜を畳む姿にさえ恋をしているつもりだったのだが、
どうしてかこの片思いは気分が優れない。
「な、一番前の左から三番目のやつキモくね?」
「うっわ、お前イジるなって、ありゃあ笑えねぇキモさだ、やべぇウケる」
「あはは、男子笑ったらかわいそぉーじゃんかぁ」
普通は初恋の最中、ドキドキしてキラキラして明るい世界になるだろうに、
穂ノ香の場合はイライラしてジメジメして暗い世界だった。
それは彼女が三年三組の生徒だからなのかもしれない。
あーあ。早く帰りたい
つまんないの
ステージには、先輩を恐れ膝が見えるか見えないかの制服スカートから肌色面積が少なく、すぐに白いソックスで足を支配されている女子や、
先生を気にしてシャツをきちんとスラックスのウエストに入れていたり、シールや落書きといったアレンジを加えていない名札をきちんと付けている男子が、
まだ小学生の顔つきを残した初々しさ満開で課題曲を歌っている。
子供のように清々しい一年生の彼らと、大人になる前の三年生の自分たちのどちらが本当は幼いのか、
中学生活が不快な理由をクラスメートに押し付ける少女には分からなかった。



