好きな少年が居たところで、穂ノ香のように外見にも内面にも自信がない少女は何もできない。
ただただ授業中に盗み見をするしかできない。
できないには二種類あり、できないと決め付けて、努力をすることさえ彼女はできない。
「彼氏ん私服微妙にダサいんですけどー」
「えー、改造しちゃいなよ」
「なんかさ最近一緒に居ても成長しなくてさぁー別れよっかな、?」
垢抜けた彼女たちのお喋りは、ノートをとるしか役割がない者にとって夢のような話だったし、
「キスってどこですりゃいーの? 向こう年下じゃんよ」
「そりゃお前、ベタに帰り道だろ」
「えー、無理だよ無理」
ませた彼氏たちの会話は、男子は精神年齢が低いと線を引きたがる者にとって現実味のないテーマで、
同い年なのに違う世界の人に思えていた。
なんだかんだ教室で派手なパフォーマンスをとりたがる子は、大人っぽい恋話をしてこそ注目を集めたがり、
わざと大きな声で悩み相談をして、皆に聞かせているみたいだった。
かっこいいな
落ち着きがあるから良い
それに引き換え、眼鏡をかけている嶋の落ち着き感ったら半端ない。
黒板を見遣る横顔が、より一層知的に思え、大好きだった。
ただただ瞳に愛しの彼を保存することが恋だった。
そう、周防穂ノ香はプライドが高い証拠に、失敗する未来を避けるべく現状維持の片思いに夢中だったのである。



