だから三年生の今、あんまり楽しくないネガティブに満ちたクラスの波長が穂ノ香は嫌いだった。
去年ならば、給食の時間には課題曲を流して合唱コンクール一色だったのに、
ピアノが弾ける嶋を皆が「オカマ」とか「お坊ちゃま」とか、悪意に溢れたあだ名を付けて小話をするようになっていた。
それはちゃんと聞いてないから言えるのだ。
スタッカートやらドルマークに似ている記号などどうでもいい穂ノ香でさえ聞き惚れる曲を弾ける彼が、
上手か下手かは知らないも、いいなと感じていることが大切なのだと思う。
きちんと耳に飾れば、確かに心の輪郭を揺さぶってくれる音を嶋は両手で創れるのだ。
「船場って主食が焼肉だろ。エンゲル係数高ぇな」
「もー、かわいそー船場さん」
「オカマちゃん点滴似合うくね?」
「あいつマジ細ぇって、隠れオネエ」
お昼休みになれば、隣のクラスの二組からは課題曲が盛大に流れているのに、
三組では頑張ったり燃えたり一生懸命取り組むことはダサいという認識であったから、
誰かを陥れる笑い声に溢れてしまっていた。



