そんなパッとしない穂ノ香と嶋の世界は、いたってシンプルであった。


せっかく自然に絡めるチャンスが多い同じクラスなのに、

今年交わした言葉は日直で当番が被った時に、

『黒板消しと号令するから。周防日誌書いて』だけだった。

そして『うん』も言えずに、名字が周防の穂ノ香は黙って頷くしかできなかった。


たったそれだけに、彼女がどれだけときめいたかをどう説明したらいい。

好きな人に話しかけられたのだと、たったそれだけで気の毒なくらい幸せがった。



あれ以来、何もない。
接点がないのだから淡いエピソードや甘い思い出などある訳がなく、

仲良くなるシチュエーションを見逃す達人がいくら片思いをしようが、

無口で無愛想で冷静沈着な彼には何も影響しないから進展などしていない。



――男子と女子、どうして世界が違うのか。

中学三年生、いい加減代わり映えしない片思いにさよならをしたいと穂ノ香は思うだけで、

結局、何も頑張らずに何も努力せずに、

自分の外見が生まれつき可愛くないせいだから仕方ないと、

今に言い訳ばかりして、告白という言葉から逃げてプライドのみを守っているのだった。