『じゃああれな、今日から2組のボスは周防穂ノ香で決定! みんな青春に向けて可愛く頑張りましょ、じゃあ穂ノ香サマ指揮頑張れ』
意思とは違い、お調子者に笑顔を向けられると、穂ノ香の不安なんて消え去っていたし、
彼が一人であれこれ自己チューに仕切る癖に、恐らくクラスメートが本当はそれを待っていた。
そう、明るい教室に塗り替えるのは皆なのだけれど、絵の具と筆を用意しているのは決まって八重歯が可愛い少年だった。
毎日毎日馬鹿らしく全員が笑った。穂ノ香も笑った。
そして、普通はこういう男子に恋に落ちるはずだと穂ノ香は朧げに思った。
しかし、惚れるべき相手が『穂ノ香サマ〜』と言う冗談に嶋が笑ったのをきっかけで、
穂ノ香は完璧な恋に落ちた。
物事をくだらないとすかして無表情を貫く一人、唇を開いて歯を見せ笑わせる魔法にかけられた。
今振り返れば、物静かな二人がよく大役をやれたなと思う。
通常、控えめな者が前に出ると先生ウケは外さないが全体的に盛り上がりに欠け、小さく静かにまとまりがちだ。
更に下手したら、他学年からも野次というか悪口を投げられ、イジられる傾向が強い。
それがまさか友達だって増えたのは――――お調子者が作り上げるクラスの雰囲気が良かったからだ。
彼はなぜか皆のマイナス要素を排除し、日々つまらない冗談を振り撒きポジティブ精神を無料配分できる人柄だった。
つまり、彼と正反対な奴が穂ノ香であった。



