「オカマちゃんみてぇな存在感ねぇ奴って将来犯罪しそうくね?」
「分かる! 文集マスコミに売りこめ」
地元にこだわりカンニングを自慢する性格で、ブログに夢中な高校生に憧れがちな男子二人が、
誰かを陥れる恒例の会話を行い、教室を閑散とした色に染めていく中、
穂ノ香は黙って給食を口に運んでいたのだが、今日はイレギュラーが発生した。
「嶋とか普通にキモいよな? 周防」
そう、突然彼らに話を振られ、異性に不慣れな彼女は一瞬で身体が硬直した。
服装点検に物おじせず襟足を伸ばしがちな男子は、制服のスカートを一つ折れても裾をカットできない女子からすれば、
世界が違う尊いお方で、口をきける立場ではなかった。
「オカマちゃんとかないよな?」
無言で一人頷いたのは、悲しいけれど仮にも嶋に片思い中の乙女であった。
学生生活において同調が周りと馴染む一番簡単な方法で、
そんな中、異論を唱えるならば次は己がターゲット候補となる訳で、
頑張って唇を動かせば「分かる。キモいよね」と、自然に穂ノ香は呟き笑えてしまっていた。
嶋はというと、一人黙々とご飯を食べている。
……。
彼は彼女に腹を立てやしない。何も感情を揺さぶれない自分が嫌になる。
もしも今、ここに明るいユニークな少年が居たら、何か違った言葉を選べたのだろうか。
好きな人と何も接点がないことがむなしくて、穂ノ香は下唇を噛んだ。
これこそが、意思はあるのに意気地はなく、クラスメートに怯える人間の正しくも情けない日常であった。