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  好きなのになぁ、

部屋で一人、好きな少年のことを想う。

若々しい片思いの仕方は、妄想に時間を費やす労力を惜しまない点であろう。


プリクラが主流の中、クラス集合写真しか顔を見る方法がないのが、

穂ノ香のように消極的な女子らしい恋愛事情の普通だった。


メールアドレスさえ知らないから、教室を離れたなら仲良くなる術がない今、

ただただ進展しない恋心を膨らますしかできなかったので、

二段ベッドの下、携帯電話のボタンより小さい嶋の仏頂面を眺める時が唯一幸せだった。


とはいえ、平成のゆとり時代、ソーシャルサイトで彼を検索すれば友達関係づてに生活スタイルや評判など一定の情報は容易に手に入りがちなのだが、

もはや相手の許可なく探るのは詮索に値し、プライバシーを無視したマナー違反な気を持ち、

知りたいと思う衝動に躊躇しなければならないところを、

悪気なく皆みたいに穂ノ香もクリックしたものの、

彼は存在がない存在なので、彼のリアルを何も得ることはできなかった。


  あーあ、好きなのにな

  全然……何もならない

異性どころか同性とも親しくしない彼だから、好きな食べ物とかよく見るテレビとか、

理想のタイプとか家族構成とか、基本的なことを何も彼女は知らなかった。