「じゃあまた会う日まで。お元気で。」
機械的な挨拶をわざと述べ、ジョークでさよならをするお調子者が穂ノ香に背を向ける。
皆が変わっても、教室の前方で笑っていた少年だけは、永遠に変わらないと信じていた。
けれど、彼は皆と同じだった。
中学生を卒業して高校生を選んだ人。
外見は相変わらずイケメンと呼ばれる美しさだったが、
同窓会での言動が昔と今なら違った。
だって、昔のお調子者ならば乗り気ではない嶋を無理やり話術で丸め込み、同窓会へ連れ出したはずだったのに、
ここに彼の姿はない。
要所要所でツッコミ、ボケて、笑いを生むところは大差ないが、
中学時代みたいに、皆をまとめて仕切らなくなっていた。
嶋レベルの物静かとまではいかないが、かなり声のボリュームが小さくなり、
授業中につまらない冗談で無邪気に盛り上げる側から、同窓会でヤンチャな奴らが創るノリに合わせる側となっていた。
そう、一線で活躍するキャラクターから、高校生の彼は二番手におさまっていた。
大人にしたのは新しい恋人の影響なのだろうか。
誰かをイジるばかりだったのに愛想が良くなっていたかつての敵、皆に嫌われていたのに強くなった船場、
同じ冴えない種族だったのに華麗なる転身を遂げた亜莉紗、目立ちたがり屋だったのに引き立て役に落ち着いたお調子者、
記憶の中で生きる人々は偽者で、現在が本当の姿だとすれば、
何も成長していない穂ノ香は何なのか。
「ほんじゃあ。さらば」
あの日、好きな人に好きと告げられたなら、未来の今がキラキラ輝いていたのかもしれない。
十八歳の嶋はどんな本を読んで、どんな人と出会って、どんな顔をして毎日過ごしているのだろう。
新しい夢に踏み出すのは、いつも自分。



