船場は『好き』と言った。
穂ノ香は好きさえ言えなかった。
お調子者は『好き』と聞いた。
嶋は好きさえ聞けなかった。
穂ノ香は船場が大嫌いだった?
違う。
あれを認めたら、自分があいつに負けた気がして悔しいから――違う。
あれを認めたら、自分の心があいつより貧しいと切なくなるから、穂ノ香は必死で嫌おうとしていたのだ。
「あ、ちょうど良かった船場さん、あいつまた色んな意味でラブリーに煙草買いに行った臭いからさ、歌キャンセルって誰かに伝えといてよ。
頼んだ、俺ちょっと今から一瞬弟に電話しなきゃなんだ。船場さん来てくれて良かったわ。助かった」
屈託なく笑うデキ婚に、ダルマが無邪気に笑い返す。
「うん!」
はしゃぐ様から、彼女が今だに彼を好きなのだろうと伝わってきた。
すべてをさらけ出すならば、可愛くない分際がイケメンに告白をしてはならない学生社会の常識を守らず、
恋に忠実であれる船場を穂ノ香は羨ましかったのだ。
嶋に想いを馳せているはずが卑屈なまま歪んだ片思いしかできなかった自分とは違い、
彼女は本当に好きな人に『好き』と伝えた思い出のあるなんて、羨ましくてたまらなかったのだ。



