ガチャついた着信音が響き、今は同窓会中なのに優先順位が携帯電話の人間――元クラスメートの敵が「話してくるわ」と、
階段を更に駆け上がっていった。
訪れた空間は、穂ノ香が苦手とする二人きりの世界だった。
「……、……ぁ、」
上手く話せず、もじもじと左手首を右手で掴むしかできない少女に、
「つか俺あいつん歌が次始まるから探しに来たのにまたどっか行ったな。あいつ現代っ子だな、俺ジジイだから」と、
気さくに笑う少年は、結局昔と何も変わっていないと思われる。
チャンスだと神様が言っている。
今こそが可愛くなる時だと教えてくれている。
「あの! わ、……!、あの!、わたし、ね?」
唇を動かせば、後は心臓から声が勝手に引き出てくるはずだ。
今、目の前に居る人は同級生に比べ、心の構造が精密だったせいか、
大人しく引っ込み思案な彼女が言葉を発する珍しさに柔らかな瞳を送ってくれる。
嶋に会えない穂ノ香だけれど、頑張ろうと決めたのに――
「あ! 居た! 急に居なくなるから探してたんだよ〜?」
二人の間に突然入ってきた人物。
身内だけの特別な同窓会なのに、まさか部外者のガールフレンドを自慢目的で連れてきていたのだろうか。
「もー、早く! 皆待ってるんだよ?」
一秒も経たない内に、その恋人気取りな口調に嫌な予感が的中してしまう。



