運命の再会で初恋が実るなんて、とある少女には夢物語だった。
数年経てば、人は変わる?
歳を重ね高校生になろうが積極性のない人間は、中学時代と同じくすべてから逃げる天才のままなせいで、
今こうして皆の輪より外れた階段に独りで居るのだ。
密閉されて息苦しいカラオケルームとは違い、お調子者が作る空気は清潔過ぎて逆に自分が小さく感じられ、
本来は癒されるはずが、どうにも居心地が悪い。
つまらない三組出身でなければ、あの恋は実ったのだろうか。
三年生の文化祭――あの日が穂ノ香の人生で最高に幸せを味わった二年生の合唱コンクールをこえ、
中学時代で一番楽しい瞬間となっていた。
『文化祭手伝って』
見捨てたふりをして裏で約束を守ってくれたから、嶋の笑顔を見れた特別な一日。
ステージに大量発生したゾンビと吸血鬼を前に、あの無表情な嶋が確かに爆笑したのを穂ノ香は見た。
パッとしない青春に、素晴らしい恋愛の価値を教えてくれたのは誰?
舞台右端で歌う音痴なゾンビの少年の瞳の中心に小さな男の子が住んでいた事実を知っているのは、
彼に恋をしていた人だけなのだろう。



